この作品は、ミステリではなく、第一次世界大戦を舞台にした文学作品なのですが、
ミステリの時と同様に、あっち行ってこっち行って、こうなったかと思ったら、そうなって
と、最後まで全く着地してくれないのは一緒です。
ストーリーをけん引していくのは
アルベール・マイヤール
エドゥアール・ペリクール
アンリ・ドルネー・プラデル
の3人
戦争の愚かさが、この3人を通して描かれている。
戦争に英雄なんて必要ないんじゃないの?
だって、人殺しよ?
大義名分はどうあれ、殺人でしょ?
そして、そのせいで、多くの人が巻き込まれ、人生を狂わされる。
この3人も、その戦争というもののせいで、運命を狂わされた。
良くも悪くも。
戦争で、功績をあげ、没落貴族の名をあげようとした プラデル。
そうして深みにはまっていく。悪の権化である。
その企みに気づいてしまった為に、プラデルに殺されそうになったアルベール。
いや。実際に、一度は死んだのだ。
たまたま居合わせてしまった為に、人生が一番大きく狂ってしまったと思われるエドゥアール。
幸運体質だった為に、命は助かり、また、アルベールを助ける事もできたが、そのせいで、大きなハンデを背負うことになってしまった。
アルベールとエドゥアールの奇妙な依存関係。
せっかく助かった二人なのに、
せっかく戦争が終わったのに、
救われない二人。
エドゥアールの為と思って行ったことで、逆に責任を感じ、二人が生きて行く為もがきつづけるアルベール。
自分の為に、頑張ってくれているのは重々理解しながらも、こうなってしまった事の責任をアルベールに転嫁し、虚構の世界に逃げ込むエドゥアール。
それでも、二人は細々と、なんとか生きていた。
上巻は、突然現れるプラデルの恐怖におびえながらも、必死で世間から隠れながら、細々と暮らす二人の生活が描かれている。
そして、下巻では、場面が転換。
プラデルが、エドゥアールの姉と結婚していた。
アルベールはそれを知るが、エドゥアールには話せない。
エドゥアールは、下宿の娘と心を通わせ、ある事を思いついてから、生き生きとしはじめる。
それは、道徳的には間違った事だが、彼は彼なりに、戦争に対して復讐をしようとしていたのだ。そして、なにより、アルベールに、今までさせてきた苦労をなくしてやりたいと思ったんだと思う。
ここからも、先が全く読めない、どう転ぶかは、終わってみるまでわからない。
アルベールの心情と共に、ハラハラしながら物語が進む。
ただ、その中で、「プラデルに復讐を!」とか思ってしまったよ。
そこは、勧善懲悪を望む。
プラデルには、自分がやったことの責任をきっちりとっていただきたい。
美味しい汁ばかりは吸わせてやりたくない。
二人が苦しんだのと同様、いや、それ以上に、プラデルにとっては、屈辱でしかないであろう結末を希望してしまうワタシは嫌なヤツなんだろうか・・・・
いや、そうみんなに思われても仕方ないような事をプラデルはしてきたと思うよ!!!!!
その3人の周りで、
アルベールのおかんと元恋人、そして新しい恋人や、エドゥアールのおとんと姉さん、
下宿のおかみさんと娘、監査の役人、銀行の仲間、
などなどの生き方考え方も織り交ざり、複雑に絡みあう。
結末は
なんと表現したらいいのだろう。
ある意味、勧善懲悪である。してやったりの大団円。ざまぁみろプラデル!
ある意味、悲しみに浸る。エドゥアールは、最初から、そうしようと思っていたのかなと思わされる。彼の能力があれば、最初からそれを作る事は出来ただろうし、それをかぶって実家に乗り込む事もできただろうから。これは、彼なりのサプライズ。人を驚かせる事が好きだったから。
そして、彼なりの自己完結。そうすることによって、自分の苦しみから開放される。アルベールを自分から開放する。父と姉に別れを告げたのだと、私は感じた。
そして、ある意味、今後の不安と期待。
植民地に逃げたアルベール。彼はこの先、大丈夫なんだろうか?
エドゥアールがいなくなり、たぶん、駅にこなかった時点で、アルベールも、エドゥアールの思いを感じ、行動を感じ、彼が死んだ事に気づいたんだと思う。
だけどきっと、ポリーヌが一緒だから、これからのアルベールは大丈夫だと信じたい。
ルメートルという人は、本当に、暗い話の中に、光を残すのがうまいと思わされた。
色んな作品の感想で繰り返し言ってる気がするけど、また言う。
戦争反対!
絶対反対!
PR
この記事にコメントする